初めてのScideam 損失解析<br>第2回 実機計測とシミュレーション編 

初めてのScideam 損失解析
第2回 実機計測とシミュレーション編 

今回は実機での測定内容とScideamの詳細損失解析について説明した後、実機とシミュレーションの回路効率がどの程度一致しているのかを、出力電力と効率特性のグラフを用いながら検証していきます。

本記事には、サンプル回路もございますので、ご利用ください。

実機の構成や、回路モデルのパラメータについては、第1回で紹介していますので、合わせてご覧ください。

実機の効率を計算する

測定環境について

PEK120の入力端子には電源装置、出力端子には電子負荷を接続します。
入力電源とPEK120の入力端子間に入力電流測定用のデジタルマルチメーターを直列に接続します。

【図1】測定環境の構成図 

損失の計算に必要な入力電圧、入力電流、出力電圧、出力電流はそれぞれ以下の方法で計測します。
入力電圧…PEK120の入力端子台にプローブを当てた時のテスターの電圧値
入力電流…電源装置とPEK120の入力間に挿入されたデジタルマルチメータの電流値
出力電圧…PEK120の出力端子台にプローブを当てた時のテスターの電圧値
出力電流…電子負荷のパネルに表示された電流値

入力電圧、出力電圧の測定は端子台にプローブを当て測定していますが、これは、配線の電圧降下を含まない位置で測定するための重要なポイントです。

また、測定器間に差がある場合、計算後の誤差が思いもよらず大きくなることもあるので、校正は怠らないようにしましょう。

デジタルマルチメーターはこちらを使用しました。
デジタルマルチメーター DL-1060

直流安定化電源はこちらを使用しました。
ワイドレンジ直流安定化電源 PSW-360L80

・出力電圧 30V~800Vまでの5タイプ、出力容量 360W/720W/1080Wの3タイプ、全15機種をラインナップ。
・ブリーダー抵抗制御、テストモード、内部抵抗制御モードなど多彩な機能
・ワールドワイド対応AC入力・熱電帯用ミニチュアコネクタ入力端子
・USB、LANを標準装備(GP-IB、RS-232Cはオプション)
販売元株式会社テクシオ・テクノロジー
URLhttps://www.texio.co.jp/product/detail/11

電子負荷装置はこちらを使用しました。
電子負荷装置 LSG-350

・150V及び800Vの2シリーズ
・カラー液晶(LCD)+10 キーを搭載し優れた操作性と視認性を実現
・自動テスト機能:OCPテスト、OPPテスト、BATTテスト、MPPTテストによる電源装置や電池、太陽電池の試験が可能
・RS-232C、USBを標準装備(GP-IB、LANはオプション)
販売元株式会社テクシオ・テクノロジー
URLhttps://www.texio.co.jp/product/detail/159

効率の計算

出力50W時の入力電力と出力電力を計算して、回路効率を算出します。
電子負荷のパネルに出力電力が表示されるので、おおよそ50Wとなるように、電源の入力電圧を52.2V、電子負荷の抵抗値を11.3Ωに調整します。

各項目の計測結果は表の通りで、効率を算出すると96.52%となります。

入力電圧[V]入力電流[A]入力電力[W]
52.011.007552.40

出力電圧[V]出力電流[A]出力電力[W]
24.052.10350.58

シミュレーションの実行

【図2】PEK-120の回路モデル

続いて、Scideamの詳細損失解析で効率を確認してみます。
実機の計測に合わせて電源は52.01[V]、抵抗値を11.3[Ω]に設定します。

損失解析を行うには、シミュレーションモードは”Power”を選択します。
Switch ModeはDetailを選択して詳細損失解析モードでシミュレーションします。
Toleranceはデフォルト値の”1”でも十分な解析結果が得られますが、今回はより正確な結果を得るために”0.1”に設定します。

【図3】詳細損失解析を実行する場合の設定

シミュレーションが完了すると損失解析結果がリスト表示されます。
出力50Wで実行した場合、負荷抵抗Routの電力は51.091Wで効率は96.30%です。

【図4】詳細損失解析を実行した結果

さらに、実機ではFETドライブ回路の電源は主電源とは別なので、FETのゲート抵抗の損失(0.050W)を除外して効率を再計算すると、51.091W / (53.054W – 0.050W) = 96.40%の効率になります。

実機と比較して、効率の差は0.12%で入力電力を52Wとして考えると誤差はわずか60mW程度なので、かなり実際と近いシミュレーション結果といえます。

結果の確認

出力電力・効率特性グラフの比較

50Wでは、実機と近い結果が得られたので、出力電力10W~70W時の結果を比較します。グラフは10W~70W時の実機の計測結果と、シミュレーション結果から作成した、出力電力と効率の特性を表します。

【図5】出力電力 – 効率特性の比較図

実機では、10W~20Wにかけて一気に効率が上昇し、20Wで最大効率になります。
対して、シミュレーションは10W~30Wにかけてなだらかに上昇し、30W時点で最大効率になります。

30Wでは実機、シミュレーションとも約96.6%の効率で30W~70Wにかけて僅かに効率が低下していきます。この間の効率は実機とシミュレーションでほぼ一致しています。

15W、20Wはグラフ上で大きくずれているように見えますが、15Wで0.41%、20Wで0.27%の差なので電力にするとおおよそ60mW前後の差であり、多少の測定誤差を考えると十分一致していると言えます。

損失の内訳

下図はScideamによる損失解析結果の内訳をグラフにしたものです。

【図6】素子ごとの損失内訳グラフ

ダイオードのオン電圧、スイッチのオン抵抗、コイルの抵抗は出力電力の増加に伴い、損失も増加します。30W以降はダイオードのオン電圧とスイッチのオン抵抗が損失の6割を占めています。

実機で要素ごとの損失を計測するのは大変ですが、シミュレータを使用すると簡単に内訳を確認することができるので、ボトルネックの分析に活用できます。

本連載記事で使用するサンプル回路をダウンロード可能です。
是非ご利用ください。
回路モデルは「PEK120_LossAnalysis」です。

シミュレーションモデルについて

本モデルは、パワエレ向け高速回路シミュレータScideam(サイディーム)で動作可能です。
本記事のモデルは以下からダウンロードしてください。

まとめ

今回の実験により、Scideamの損失解析機能を使用したシミュレーションで、回路全体の損失が再現できていることが確認できました。また、シミュレーションにおいては回路の各部損失要素の内訳も把握することができました。

次回は、スイッチング動作について実機とシミュレーションで波形を比較し、スイッチング時に発生するリンギングについて解説します。

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投稿者:

角 詩織

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