LLCコンバータ<br>第2回 ソフトスイッチング編

LLCコンバータ
第2回 ソフトスイッチング編

第2回の記事では、LLCコンバータのソフトスイッチングについて紹介していきます。
高効率、低ノイズを実現するために欠かせないソフトスイッチングを、どのように実現しているのか、その方法について概要を解説していきます。

本記事には、サンプル回路もありますので、是非ご利用ください。

また、LLCコンバータの特徴や、強み弱みなどについては、第1回で紹介していますので、併せてご覧ください。

それでは始めましょう。

ソフトスイッチングについて

LLCコンバータは追加回路や補助回路無しでソフトスイッチングを行うことができる回路方式です。
ソフトスイッチングとは、スイッチングのタイミングで電圧や電流をゼロに近くしておくことで、スイッチング損失を減らす方法です。

電圧をゼロにしているタイミングでスイッチングすることを、ZVS:Zero Voltage Switchingといい、
電流をゼロにしているタイミングでスイッチングすることを、ZCS:Zero Current Switchingといいます。

スイッチング損失は電圧と電流の掛け算で出てくるので、ZVS、ZCSのどちらかが達成できればスイッチング損失を大幅に減らすことができます。

ソフトスイッチングそのものの解説は、別途機会があれば紹介したいと思いますが、ここではこれくらいにしておきましょう。

それでは、どのようにソフトスイッチングを実現しているのか、紹介します。

動作モードについて

回路方式はフルブリッジ方式について解説します。ハーフブリッジ方式についても基本的な動作は同じです。

まず、それぞれのスイッチの時比率はすべて固定で、対称性のある動きをします。
制御方法としては、第一回の出力特性にあるように周波数変調制御を行います。
周波数によって、共振電流波形が変化し各特性が変わっていきますが、その話は第3回に回しましょう。

【図1】 フルブリッジ方式のLLCコンバータ回路

それぞれのスイッチにおいて、デッドタイムの間に寄生容量と、寄生ダイオードに電流が流れることによって、ソフトスイッチングを実現しています。

それでは、各動作状態を細かく見ていきましょう。

基本動作

まずは基本動作です。
ここでは、簡単のために一次側のみについて電流経路を考えます。

【図2】 基本動作の電流経路
【図3】 各モードの電圧電流

スイッチの動かし方は、Q1, Q4とQ2, Q3が同じ動きをし、Q1とQ2はデッドタイムありで同じ時比率で動かします。ここで、Vgs Q1は、スイッチQ1のゲートソース間電圧、Vds Q1はQ1のドレインソース間電圧です。

ZVSを達成するためには、VgsQ1がHiのタイミング、即ちスイッチがオンするタイミングで、VdsQ1がゼロになっていればよく、図[各モードの電圧電流]をみると、モード(2)とモード(4)のデッドタイムの間に各スイッチのVdsが0になっていることが分かります。

デッドタイムの間に何が起こっているのか、より詳しく見ていきましょう。

デッドタイムの間に起きていること

デッドタイムの間に、スイッチのドレインソース間の電圧が0になることでZVSを達成するわけですが、この間に起こっていることを詳しく見ていきましょう。

ここで、各モード(1)~(4)はそれぞれ対称性があるので、モード(2)について詳しく解説します。モード(4)では、モード(2)と対称の動きをします。

まず、モード(1)でトランスの励磁インダクタンスに電流が流れます。
モード(2)に切り替わり、すべてのスイッチがオフになりますが、励磁電流は流れ続けますので、この影響で、Q1の寄生容量は充電、Q2の寄生容量は放電します。これが、モード(2-1)です。

その後、Q2の寄生容量が完全に放電、つまりVds Q2がゼロになってZVS可能な状態になってもさらに励磁電流は流れ続け、寄生ダイオードを通ってモード(2-2)の状態になります。
その後、モード(3)に移行し、ZVSが完了します。

【図4】デッドタイム中の電流経路
【図5】デッドタイム中の電圧電波波形

本解説では、動作周波数fswの方が共振周波数frより高い範囲で、かつ負荷が十分大きいときを解説しました。fswが低い範囲、あるいは負荷が小さい範囲では、二次側電流が不連続な状態となり、二次側に電流を送らず一次側では励磁電流のみが流れるモードが存在します。

この場合においても、デッドタイムにスイッチのVdsに起こることは同じで、励磁電流のみを使用してZVSを達成します。

また、解説の都合上、二次側電流の動き、負荷に流れる電流については省略いたしました。ご注意いただきたいのは、負荷電流の大小によって当然共振電流波形が変わるため、ZVS達成にも影響を及ぼす場合があります。

このように、ZVSを達成するためには、スイッチの寄生容量、デッドタイム時間、共振電流、負荷電流などの要素が関係します。

是非、以下のモデルを用いて、様々な条件をシミュレーションで確認してみてください。

シミュレータでのデッドタイム設定について

本回路のシミュレーションモデルは以下の通りです。
本連載記事で使用するサンプル回路を以下からまとめてダウンロード可能です。
是非ご利用ください。
モデルは「LLCConverter.scicir」です。

シミュレーションモデルについて

本モデルは、パワエレ向け高速回路シミュレータScideam(サイディーム)で動作可能です。
本記事のモデルは以下からダウンロードしてください。

【図6】シミュレーション回路モデル

ソフトスイッチングのシミュレーションを行う際、デッドタイムの設定が重要になりますが、Scideamではスイッチのオンオフとデッドタイムの設定を行うことができる、Driver素子をご用意しております。
この素子を使用すると、デッドタイムを固定値で入力することができ、LLCコンバータのような周波数変調を行う回路でも、デッドタイムを簡単に設定することが可能です。

【図7】GateDriver素子の動作例

まとめ

LLCコンバータのソフトスイッチング方法について、解説いたしました。
また、デッドタイムを自由に設定することが可能な、ドライバ素子を使用することで、ソフトスイッチングの様子を簡単に確認することが可能であることを紹介いたしました。

ソフトスイッチングは、ある条件においては、このように成立しますが、成立しない条件もあります。この辺りについての解析や、負荷毎の効率解析なども弊社では行うことが可能でございますので、是非お問い合わせくださいませ。

参考文献

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投稿者:

中村 創一郎

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