フロントローディングで後工程削減
寄生成分でここまで変わる損失結果 ー日立製作所様の事例ー
2024年5月17日に開催されたパワエレフォーラムにて、株式会社日立製作所の河口氏がご登壇されました。
パワーエレクトロニクス製品の開発において、効率化とその実現を目指す回路シミュレータの使いこなしが重要と考える河口氏。
高周波絶縁型コンバータであるLLCコンバータを対象として、実測とシミュレーションの比較評価をおこなっていただきました。 このような興味深いお話をレポート形式でご紹介させていただきます。
目次
昨今のパワエレ機器の動向
パワーエレクトロニクスに関連する幅広い研究開発を推進している河口氏の部門は、インバータ、モータ、電源システムなどの機器において、高効率化による省エネルギー性能向上に積極的に取り組んでいる。
最近では、一般家庭においても再生可能エネルギーの利用だけにとどまらず、EVや蓄電池の普及が拡大しエネルギーの地産地消が進んでおり、単にエネルギー消費のためだけではなく、発電や電力を融通するという新たな価値がますます重要性を増している。
次世代パワエレ機器開発への道:フロントローディングを目指すために
従来のパワエレ機器へのニーズとしては、機器単体の性能向上が主な焦点だったが、今後は多様な電源ニーズに対応し、機器同士が連携するシステムが求められる。
開発の効率化という点で、特に仕様設計・基本設計といった上流プロセスの効率化が不可欠だと河口氏は言う。
研究開発現場では、上流プロセスに開発資源を充実させ、課題を早期に抽出し、複数回の再検証結果をいかに効率よく次の設計に反映させるかという点が課題となっている。
すなわち、開発プロセスや用途に応じた適切なモデリングが重要であり、各種開発ツール、回路シミュレータの活用を通して、繰り返し試行錯誤することが可能な環境の構築が開発の成功につながる鍵であると考えられる。
回路シミュレータの活用事例:LLCコンバータ開発で発生する課題と工夫
本事例では、SiC素子を適用したLLCコンバータの実測結果との比較評価をおこなった。
対象コンバータは、研究開発グループにて開発したものでありSiC-MOSを使用した高周波、高出力のコンバータである。
LLCコンバータのように複雑かつ周波数要素を複数持つものは、数値計算での詳細解析が難しい。
このような共振型の回路は、回路シミュレータを使って損失解析や出力制御特性を確認することが効率的と考えている。
しかしながら従来の開発では、Excelなどを使って自社製のツールを構築し、デバイスのデータを取り込み、回路パラメータや負荷条件を変更して繰り返し損失計算をおこなう必要があり、工数が非常に多くかかっていた。
一方、損失解析ツールがある場合は、半導体デバイス特性、高周波トランスの特性などが標準装備されており、図の回路に対して上流工程においても、解析条件の変更、素子選定というサイクルを何度も早く回すことができる。
さらにここで、損失解析を行う際には、エクセル計算では実施が難しい半導体デバイスの寄生成分を考慮する必要があると河口氏は言う。
寄生インダクタンスを考慮した損失解析
図のように、LLC回路を損失解析可能なモデルとして構築した。
このモデルでは、SiC-MOSの特性を含むデータシートに基づいたモデル化がおこなわれ、また高周波トランスのモデルにはインダクタンスや結合係数、巻線抵抗、コア材のデータなどが組み込まれている。
そして、SiC-MOSに対して寄生インダクタンス成分のオンオフが可能なようにパラメータ設定をしている。
まず初めに、電力変換効率について実測結果と比較する。
横軸には負荷率が5%から100%までの変化を表し、青は実測結果、緑は寄生インダクタを考慮した場合、赤は寄生インダクタを考慮していない場合の解析結果を示している。
負荷率が低下するにつれて誤差が現れるが、負荷100%の場合でも誤差は約0.2%と、寄生インダクタの有無による影響はほとんど見られなかった。
次に負荷率が100%と10%の場合、寄生インダクタの有無による損失の差を評価した。
SiC-MOSのスイッチング損失は全体の比率においては小さいが、寄生インダクタの有無により、スイッチング損失は約2倍の差が表れることが分かった。
これにより、SiC-MOSを使用する場合の冷却方法についても考慮する必要があり、寄生インダクタンス
が損失解析の結果に影響を与えることが示唆された。
このように、パワエレ機器の開発効率化には、上流プロセスでの課題抽出と素早いフィードバックが不可欠である。
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本解析はScideamの損失解析機能Power Paletteを使用して河口様にご利用いただいた事例を紹介させていただきました。
開発のフロントローディング化に貢献できるよう、さらに製品開発を進めてまいります。
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※本記事は、2024年5月17日に開催された「第14回 パワエレフォーラム」にて講演された株式会社日立製作所の河口氏の発表内容を基にしており、一般社団法人パワーエレクトロニクス協会、株式会社日立製作所より許諾を得て掲載しております。
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